皆さんこんにちは!女医サイクリストのもえマグロです(*^^*)
「新型コロナウイルス肺炎にかかった6名のダイバーがいた。彼らが肺炎から回復した5~6週間後にCT検査や医師の診察を受けた結果、呼吸機能の低下やCT画像上の異常、喘息症状を認めたため、現状の健康状態では全員ダイビングは許容できないというドクターストップがかかってしまった。」
というニュースが先日(2020年4月15日)ありました。わたしはこれをダイバー問題と命名しました(笑)
これは、新型コロナウイルス感染症による肺へのダメージが大きい場合、長期的な心肺機能の低下や肺の損傷などを引き起こすかもしれないという警告でもあります。
アスリートにとっては大きな懸念事項だと思いますので、このダイバー問題の記事を読み解き、私見をお伝えしようと思います。
ダイバー問題の概要
まず初めに、このダイバー問題とはなんぞや…という説明をしますね。
オーストリアの医師がダイバー向けの雑誌に投稿した報告です。わかりやすく内容をまとめてみました。
オーストリアのインスブルック大学病院のフランクハーティグ医師の報告
オーストリアのインスブルック大学病院のフランクハーティグ医師は、コロナウイルス感染後のダイバーの長期的な肺損傷の可能性について警告しています。
インスブルック大学病院で治療を受けた新型コロナウイルス感染患者の中に6人のダイバーが含まれていました。検査や治療期間を経て、彼らの症状は次第に改善しました。
回復後5~6週間が経過し、患者の自覚症状(息切れや呼吸苦など)はなくなっていましたが、軽い運動をさせた場合に2名に喘息様症状(気道の過敏性が上がっている状態)、2名に肺シャント(肺の酸素を取り込む能力が低下)、4名にCT画像での異常を認めました。
心肺機能が低下した状態でのスキューバダイビングは危険であり、運動誘発性の喘息はダイバーの中ではよく知られた禁忌事項のようです。
そのため、このような状態がいつまで続くかはわかりませんが、現時点では早期のスキューバダイビングへの復帰は推奨されないとの判断がなされました。
新型コロナウイルスの長期的な影響に関する研究はまだ始まったばかりですが、同ウイルスは肺を攻撃し、それによって引き起こされる肺の損傷に関しては多くの報告があります。
新型コロナウイルス感染後にダイバーが直面する可能性のある問題へのきちんとした評価はきっと何か月も先になり、この先変わる可能性もあり、長期の医学的勧告は臨床試験が行われるまで推測にとどまります。
ただし、短期的にできる勧告はあります。それは、回復してから数週間経ってもまだ深刻な症状があり、それがダイビングをするにあたって危険な状態でありうるということです。今後数か月以内に、これらの検査についても医師の中で議論する必要があります。この少ない症例数では、すべてが現在も仮説であり、さらなる研究により明確になるでしょう。
記事に添付されていたCT画像
新型コロナウイルス感染から6週間後の40歳の患者の肺のCT画像です。
両肺に広範な浸潤影を認めます。
患者の自覚症状は良いですが、臨床的には酸素飽和度の低下があります。
参考文献https://www.wetnotes.eu/tauchen-nach-covid-19-erkrankung/
新型コロナウイルス肺炎になると後遺症が残ってしまうのか?
ここからはわたしの経験による個人的な見解になります。
新型コロナウイルス肺炎に限らず肺炎になれば呼吸機能は落ちる
肺炎になると咳、発熱、呼吸苦などの症状がでることは多くの方が知っていると思います。
肺の中では炎症が起きて、肺の細胞がダメージを受けてその働きが低下します。ダメージは胸部単純写真(レントゲン)やCT画像で傷となって映り、傷を負った細胞はまともに働くことができません。
結果として肺炎になれば呼吸機能は落ちます。
ただ、どのくらい呼吸機能が落ちるかどうかは、その人の元々の肺の状態(ヘビースモーカーで穴だらけ、間質性肺炎など基礎疾患があるなど)や炎症の起こる範囲によっても異なります。
呼吸機能の低下はいつまで続くの?
一般的な肺炎の場合、回復にはダメージの受け方や免疫力によって個人差はありますが、6週間~6か月かかると言われています。
日常生活での症状の改善にも関わらず、運動をすると息切れや咳などの症状がでることもあります。
また、肺炎の影(=傷)が症状がなくなってからも胸部単純写真やCT画像上残ることもあります。この影が数週間もしくは数か月で消えてなくなるのか、それとも一生残ってしまうのかも傷の深さや範囲、個人によって差があります。肺結核症など、傷が残りやすいと知られている肺炎もありますが、新型コロナウイルスがそれに該当するのかどうかはまだわかりません。
新型コロナウイルス肺炎に関してはその長期的な経過観察が必要で、現時点でいえることは何もないと思います。
ただ、一度肺炎になると、元気になった後も長期的な影響を受ける可能性があるということは、アスリートにとっては少し怖い事実です。風邪などをこじらせて菌やウイルスが肺の奥に入り込まないように気を付けることは大切です。風邪をひいたときは潔く休息をとりましょう。
記事に添付されていたCT画像について
正直、画像を一見しただけで重症な肺炎だと思いました。こんな肺炎だったらそりゃ6週間経っても肺の機能は低下しているだろうな…というのは想像に難くありません。新型コロナウイルス肺炎だからというより、市中肺炎であってもこれだけ重症であれば6週間程度では回復しない場合が多いと思います。
症例報告レベルですが新型コロナウイルス肺炎に典型的な画像上の特徴はなく、軽症のものから重症のものまでさまざまです。
今回報告されたケースがたまたま重症例だったために呼吸機能低下が遷延している可能性もありますし、前述したとおり今後どうなるかというのは長期的な経過観察が必要です。
ただ、メカニズムは未だ不明ですが、ウイルスの影響で炎症の渦が起きる場合があり、炎症が広範囲化しやすいとも言われています。
(肺内でウイルスの存在する場所と違うところにも炎症が起こってしまう現象です)
また、集団感染したクルーズ船の乗客ではスクリーニング検査のためにCT検査が行われ、症状のない新型コロナウイルス感染者の肺に影があったこともわかっています。
不顕性感染(症状はないけどウイルスには感染している状態)でも肺に何らかの影響が出る場合もあるので、たとえ重症化しないとしても感染は防ぎたいですね。
呼吸機能は訓練で回復できます
風邪をこじらせたり、肺炎になってしまった人は呼吸機能を回復させるためにリハビリが必要になることがあります。
アスリートだと特に呼吸機能は重要ですよね。
まずは椅子に座って口すぼめ呼吸で呼吸筋を鍛え、徐々に歩いたりして活動量をあげていきます。
身体の調子に合わせて強度をあげていき、持久力を強化していきます。
これらの訓練によって、呼吸機能は次第に回復していきます。完全に元通り…となるかどうかはやってみないとわかりません(としか言えません)。笑
まとめ
以上、ダイバー問題(もえマグロ命名。笑)についてまとめてみました。
新型コロナウイルス肺炎になってしまうと、呼吸機能に長期的な影響を受ける可能性があり、それはアスリートにとっては少し怖い事実です。
ただ、新型コロナウイルスに関するプロフェッショナルはおらず、長期的な経過観察や研究が必要です。
感染防止・感染拡大防止、肺炎の症状、感染状況などと言った情報はたくさん流れていますが、こういった視点でも問題を考えていただければなと思って、この話題を取り上げてみました。少しでも参考になれば幸いです。