こんにちは!女医サイクリストのもえマグロです(*^^*)
今回はある論文を紹介したいと思います★
その論文のタイトルは
Effects of Oral Contraceptives on Body Composition and Physical Performance in Female Athletes
The Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism, Volume 89, Issue 9, 1 September 2004, Pages 4364–4370
直訳すると「女性アスリートの体組成と身体能力に対する経口避妊薬の効果」です。
- 女性アスリートがピルを使用すると体脂肪率や骨密度は変化するのか?
- 競技パフォーマンスへの影響は?
この2つについて調べた研究です。
2004年に発表され、論文としては古いですが、その被引用回数は100回を超えます。被引用回数が100回を超える論文はこの分野ではおそらく1%にも満たないので、かなり有用な論文といえるでしょう。
かなり長丁場の記事になりますが、月経障害に悩んだり、ピル服用を検討している女性アスリートにとっては非常に参考になる話だと思います。お時間のある時に読んでいただけると嬉しいです。
背景
経口避妊薬(以下:ピル)は、世界中の多くの女性が使用しています。主な目的は避妊ですが、長期にわたる無月経の女性のために医療目的にも頻繁に使用されています。エストロゲンは骨量維持のために重要であることが知られており、いくつかの研究で低用量ピルが閉経前の女性の骨量減少を防ぐことが示されていますが、そうではないと報告している研究もあります。
一般的にピルは副作用は少ないですが、頭痛、吐き気、乳房の圧痛、体重増加などが起こりえます。これらの副作用のためにピルの内服ができなくなることもあるため、臨床的には重要です。若い女性は特に体重増加を心配するかもしれません。
多くの人に長きに渡って使用されている薬ですが、ピルの代謝効果はまだわからないことも多く、食欲と体重の変化が起こることが知られていますが、関連は不明です。 ピル内服中の体組成を評価する研究はわずかであり、体重や体脂肪に有意な変化は見られないとの報告もあります。
体組成の変化は身体パフォーマンスにマイナスの影響を与える可能性があるため、ピルの体重増加と代謝効果に関する疑問は女性アスリートにとっては重要です。月経障害は、特に持久系スポーツの女性アスリートによく見られ、不十分な食事摂取に関連しています。長年の無月経とエストロゲン欠乏は、特に脊椎などの骨粗鬆症の増加に関連しています。アスリートの月経障害は、疲労骨折の発生率の増加にも関係しています。摂食障害、無月経、および骨粗鬆症は、女性アスリート三主徴とも呼ばれています。この三主徴は現在、女性のエリートスポーツで最も深刻な医学的問題と考えられています。エストロゲン欠乏症の治療の必要性は、無月経の運動選手には明白ですが、骨量と体組成に対するピルの影響に関する情報はほとんどありません。さらに、身体的パフォーマンスに対する影響を調査した研究はほとんどありません。 ピルの短期使用に関連する最大酸素摂取量(VO2 max)の減少に関する報告もありますが、別の研究ではパフォーマンステストにおけるピルの悪影響を確認できないという結果になっています。
スポーツの世界では、ピル使用による体組成と身体パフォーマンスに対する影響に関するより多くの知識が強く求められています。この研究の目的は、ピルの使用が女性アスリートの体組成と身体パフォーマンスに影響を与えるかどうかを調査することでした。
被験者と方法
被験者
持久系アスリートの選択基準
- 年齢:16〜35歳。
- ボディマスインデックス(BMI)、18–24。
- 健康で非喫煙者。
- 最低6時間/週の有酸素運動または最低70 km/週のランニング。
一般女性の選択基準
- 持久系アスリートと年齢とBMIが一致する人を採用。
- 1時間/週の軽い有酸素運動に制限。
月経状態に関する情報(無月経;過去3ヶ月間出血なし、少月経;月経間隔が6週間を超える、正常な月経周期)が被験者から提供されました。
薬の使用は許可されませんでしたが、ミネラル/ビタミンまたは栄養補助食品の摂取は認められました。
無月経(8人)少月経(5人)の13人の運動選手、正常な月経周期の13人の運動選手、および正常な月経周期の12人一般女性が対象となりました。
実験計画
持久系アスリート、一般女性を対象にピルの使用の平均10か月の前後に調査を行いました。
- 体組成
- 身体的パフォーマンス
パフォーマンスは軽食の2時間後(10:30〜15:00)に評価され、被験者がトレッドミルで走っている間にVO2 maxと肺換気が測定されました。
持久力は、バランスとしなやかさを含む全体的なパフォーマンスを反映することを目的として、20mシャトルランを使用して評価されました。
20mシャトルランはオーディオカセットから発せられる音信号に合わせて20 m離れた2本の線の間を走るもので、音信号の時間間隔は1分ごとに短くなります。被験者が設定されたペースに追随できなくなり、3回連続して目標ラインに到達できなくなると、テストは終了です。
トレッドミルの実行中およびシャトルラン中に、心拍数を測定しました。指先からの血液サンプルを運動後1分以内に採取し、血中乳酸濃度を測定しました。
脚の伸展性や両手の握力も測定されました。
結果
月経障害のある運動選手とない運動選手、および一般女性の年齢と身体的およびトレーニング特性に関するデータを表1に示します。初潮年齢は、正常な月経周期の運動選手より少・無月経運動選手の方が高かった。エストラジオールのレベルはグループ間で有意な差はありませんでしたが、月経障害の運動選手のグループで最低値でした(月経障害の運動選手、29.4±13.5;正常な月経周期の運動選手、34.6±12.9;一般女性、47.5±17.4 pg / ml) 。
体組成に対するピルの影響
運動選手と一般女性の2グループにおけるピル使用前後の体組成を表3に示します。
月経障害のある運動選手は、ピル使用後の体組成に非常に大きな変化を示しました。 体組成の変化は一般女性ではありませんでした。体重と体脂肪量の有意な増加があったのは、少・無月経の運動選手グループのみでした。総骨密度は、少・無月経の女性でも有意に増加しました。正常な月経周期の運動選手や一般女性ではそのような効果はありませんでした。しかし、正常な月経周期の運動選手では脚の骨密度が増加しました。除脂肪体重はすべてのグループで変わらなかった。図1は、少・無月経選手がピル使用前に最も低い脂肪量と骨密度を示し、体重、総脂肪量、および総骨密度の最大の増加を示したことを表しています。
身体パフォーマンスに対するピルの影響
アスリートと一般女性のピル使用前後の身体パフォーマンス値を表4に示します。
アスリートと一般女性では、ベースラインで測定されたほとんどすべての身体パフォーマンスと生理学的パラメーターに非常に大きな違いがありました。VO2 maxや持久力に変化はありませんでした。ただし、少・無月経グループでは、シャトルランを使用するとパフォーマンスレベルが6%低下しました。
検討
これは女性アスリートの身体パフォーマンスや体組成に対するピルの影響に関する最初の報告です。体組成のわずかな変化でさえ、パフォーマンスと競争力に影響を与える可能性があるため、これらの問題は重要です。 ピルのホルモン効果は、以前はアスリートではない一般女性の間でのみ調査されてきました。
ピルのホルモン効果は、アスリートグループと一般女性の間で非常に似ていました。それにもかかわらず、体組成の著しい変化は、少・無月経選手の間でのみ記録されました。このグループでは、10か月のピル内服後の平均体重増加は2.4 kgでした。体重の増加は主に体脂肪の増加によって引き起こされ、除脂肪体重の変化はありませんでした。予想通り、少・無月経選手は治療前の体脂肪量が最も少なく、ピルの内服によって上半身と下半身の両方の脂肪が増加しました。運動性無月経とエストロゲン欠乏は、エネルギー欠乏を反映することがよく知られています。アスリートのグループ内では、月経障害のある女性で体重と体脂肪の最大の増加が見られました。脂肪量のベースラインが低いため、体脂肪の大幅な増加に関連があったと思われます。
性ステロイドは、食欲と代謝機能の低下作用があると言われています。エストラジオールは食欲を阻害しますが、高用量のプロゲスチンは食欲を刺激します。 ピルはインスリン感受性も低下させる可能性があり、炭水化物代謝への影響はプロゲスチン成分に起因します。さらに、性ステロイドは脂肪組織に代謝効果を及ぼす可能性があります。閉経後の女性では、エストロゲンの経口投与により、食後の脂質代謝が低下し、脂肪量が増加することがわかりました。この研究では、体重と脂肪量の増加がアンドロゲンレベルの低下と関連していることがわかりましたが、他のホルモンの変化との関連は見つかりませんでした。内因性アンドロゲンは腹部肥満に関連していますが、外因性アンドロゲン治療は閉経後の女性の体脂肪と体重を減少させることが示されています。 ピル使用中の体重と体脂肪の増加の原因となる正確なメカニズムはまだ解明されていません。
月経障害は、女性の持久系アスリートによく見られます。骨密度の低下、特に脊椎骨の損失は、無月経が引き起こす深刻な問題です。アスリートの月経障害は、筋骨格損傷の増加とストレス骨折の2〜4倍のリスクにも関連しています。臨床診療では、月経障害によるエストロゲン欠乏状態での骨量減少を防ぐために、ピルによる治療が推奨されることが多いですが、アスリートにおけるピル使用の影響に関するデータは不足しています。この研究では、比較的短い治療期間の後、少・無月経運動選手の総骨密度の増加を証明しました。ベースライン時の骨密度が低いアスリートは、治療により最大の利益を得ることがわかりました。対照群の一般女性では骨量への影響は見られませんでした。この結果は、他のいくつかの研究が骨量に対するピル使用の有益な効果を実証できなかった理由かもれません。エストロゲン/プロゲスチンによる骨代謝阻害により骨密度が増加します。また、正常な月経周期のアスリートでは、脚の骨密度にプラスの効果が記録されたため、骨量への影響は体重負荷運動に関連している可能性があります。
アスリートのピル使用による体組成の大幅な変化にもかかわらず、身体的パフォーマンスへの影響はほとんど示されませんでした。スポーツの世界では、ピルの使用が身体的パフォーマンスを損なう可能性があるという大きな懸念があるため、これらは重要な調査結果です。この結果から、一般的に、ピルの使用はアスリートに推奨されると結論付けています。ただし、シャトルランで評価した全体的なパフォーマンスのわずかな低下が、少・無月経グループで見つかりました。この発見は体脂肪量の増加とは関係ありませんでしたが、体脂肪量の顕著な増加が、特に体重調整が重要な持久力スポーツにおいて、運動能力に好ましくない影響を与える可能性があることを排除することはできません。
要約すると、女性アスリートのピル内服は、身体パフォーマンスに悪影響を与えることなく、体組成に主に有益な効果をもたらすことが実証されました。 ピル治療は、特に骨密度のベースラインが低い女性で骨密度を有意に増加させたため、長期にわたる無月経とエストロゲン欠乏症のアスリートの骨量減少を防ぐために推奨できます。
以上、論文のご紹介でした。とても長くなりましたが、最後まで読んでいただき本当にありがとうございます。
要点だけ絞ってまとめた簡易版も近日中に公開予定です★
ご意見やご質問があれば、お気軽にご連絡くださいね(^^)